年金の繰上げ受給は、一度決めたら取り返しのつかない重大な決断です。
しかし最近、安易に繰上げ受給を勧める情報が増えていますね。
その代表例が投資系のYouTuberで最も有名な両学長のリベラルアーツ大学(通称:リベ大)のチャンネルでしょう。
リベ大は多くの動画を公開しており、初心者さん向けの優良情報が多いのですが、ごく稀に「???これっておかしいだろ?」と思われるものも投稿されています。
その一部がこれ↓↓↓
動画の内容は「サイドFIREできるお金があるなら60歳から年金貰って今を楽しめ!」なのですが😰
結論を先に書きましょう。
- 安易な繰上げ受給は人生を破滅させる危険がある。
- 本当にサイドFIREできる資産がある人は、繰り下げ受給した方が今を楽しめる。
今回はリベ大動画が紹介した繰上げ受給の勘違いを一つずつ正していきます。
- 60歳で繰上げ受給:年金受給額がマイナス24%
- リベ大が繰上げ受給を勧める5つの理由がおかしい
- 明らかに理解していない視聴者
- インフルエンサーはあなたの老後に興味はない
- 厚生労働省が推奨する老後プランは『繰下げ受給』が基本
- まとめ:
60歳で繰上げ受給:年金受給額がマイナス24%
本題に入る前に年金の繰り上げ受給について軽く解説しましょう。
年金を繰上げ受給すると受け取る年金が減ります。
仮に65歳からなら15万円もらえる人が60歳で貰うとマイナス24%の11万4千円に減額されます。
繰上げ受給を申請してしまうと、取り消すことはできませんから、減った受給額が一生涯続きます。
これをふまえて、リベ大動画の勘違いを一つずつ正していきましょう。
リベ大が繰上げ受給を勧める5つの理由がおかしい
リベ大の動画では『サイドFIREできる人』に5つの理由から繰上げ受給を勧めています。
しかし、終身で受け取れる年金を減らしてまで優先すべきことでしょうか?
❶:年金を損得で考えるのはNG!
動画では『繰下げ受給が必ずトクではない』としています。
「75歳から受け取る計画で、74歳で天国に旅立ってしまったら損でしょ?」という主張ですね。
しかし、年金は老後資産の枯渇を防ぐための保険です。
リベ大では『自力で解決できない事態に備えるため、保険に入るべき』という考え方が一般的で私も大賛成です。たとえば生命保険では
- 生命保険が必要:家族を養っている人
⇒自分がいなくなると家族が生活できないため - 生命保険は不要:残された家族が生活に困らない人
⇒家族が自力で稼げる・莫大な資産を持っている・十分な遺族年金が期待できる など
なぜ国民(厚生)年金保険に「トータルでどちらが得か」の話が出てくるのか疑問でしかありません。
年金の役目は老後生活を安定させることであって、損得で考えることではないのです。
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❷:リベ大は動画視聴者を過大評価しすぎ
2つめは『サイドFIREできる資産を持っている人は、長生きリスクに備える必要が薄い』という主張です。
「十分なお金を持っているなら、年金が少なくても老後は安泰でしょ?」という考えでしょう。
しかし、これをYouTube動画で発信するのは危険な行為です。
なぜならサイドFIREできる基準がリベ大とXなどのSNSとずれているからです。
リベ大の考えるサイドFIREはこちら↓↓↓(HPのスクリーンショット)
リベ大のサイドFIREは資産収入だけで生活できることが大前提です!
しかし、SNSでは資産収入と軽い労働で生活する『通称:バリスタFIRE』をサイドFIREとした情報が流れていますね。
右の人のように十分な資産がないにもかかわらず年金を繰上げ受給してしまったら、一生働き続ける未来が待っているのです。
❸:娯楽費は資産を取り崩せばいい
3つ目は『お金の価値は若い方が引き出しやすい』という主張です。
ようは「体力があるうちに使え!(娯楽費)」でしょう。
まったくもってその通りなのですが
なぜそのための娯楽費を年金の繰り上げ受給に頼るのでしょう?
年金を減額せずとも娯楽費は使える
仮に年金を60歳から受け取ると、どのくらいの娯楽費を使えるか試算してみましょう。
65歳時点で受給する年金は以下の通り15万円ほどです。
60歳で繰上げ受給すると年金はマイナス24%に減額されます。
- 厚生年金(平均):15万円×(100%-24%)=11万4,000円
- 国民年金(満額):6万8,000円×(100%-24%)=5万1,680円
月11万4,000円を娯楽費を60歳からの5年間使ったとして、合計でたった684万円です。
このくらいの娯楽費なら資産から出せませんか?
もし、このていどの出費でその後の生活に影響が出てしまうなら、そもそも『サイドFIREできる資産額』ではないのです。
繰下げ受給の方が娯楽費を使える
実は十分な資産がある人にとって、繰下げ受給した方が娯楽費を多く使えます。
仮に以下のケースで70歳まで繰り下げれば年金だけで生活できるとしましょう。
- 総資産5,000万円
- 60歳で仕事を引退
- 生活費は年300万円
総資産額5,000万円から10年分の生活費3,000万円を除いても、残り2,000万円です。
急な出費に備えて500万円を銀行口座に残すとしても、残り1,500万円が自由に使えるお金ですから、取り崩して気兼ねなく娯楽費に使えますね。
それどころかもっと早く55歳で5,000万円に到達していたのなら、生活費以外の収入を全て娯楽費に使えます。
もし60歳で繰上げ受給してしまうと、資産収入(取り崩し)に頼らないと生活できません。
自分の寿命は分かりませんから、老後に必要な資産額が分からないのです。
当然、現役時代は貯蓄が優先になり、引退後も資産残高が気になるでしょう。
そんな状況で本当に娯楽費を使えますか?
↑は別記事で詳しく解説していますので参考にして下さい↓↓↓
www.katsurao.info
❹:年金が改悪されれば繰上げた年金も減る
4つ目は『年金制度の改悪ヘッジになる』という主張です。
「年金は改悪されるから早くもらった方が良い」ということですが…
改悪とは何をもって改悪なのでしょう?
受給額が減るという意味でしたら???です。
年金の受給額は65歳時点の額を元に決められます。
65歳時点の年金額は年金の加入年数や現役時代の給料により決まりますから、繰上げも繰下げも関係ありません。
もし65歳時点の年金が10万円なら
- 60歳から受給:10万円のマイナス24%
- 75歳から受給:10万円のプラス84%
この10万円が9万円になれば60歳から繰上げ受給してようが年金は減るのです。
❺:危険な考え「自分で投資した方が儲かる」
5つめは『実は儲かる可能性がある』という主張です。
繰上げ受給した年金を使わずに自分で投資(年利7%)すれば、繰下げるよりも儲かるそうですが…😰
動画ではシミュレーション結果が公開されていないので、どのような計算をしたか分かりません。
おそらくこのグラフのようなことをいいたいのでしょう。
60歳から年金を受け取り5年間は全てを投資(7%期待)に回した結果、圧倒的に資産が増えていますが、
これはあくまで投資を途中で止めなかったらの話です。
年7%を期待するなら全てを外国株式に投資する必要があるでしょう。
そうなれば暴落時に半減する可能性も考慮しなくてはなりません。
生活費の取り崩しで少しずつ資産が減っている中、大暴落でパニック売りをせず平静を保っていられる人がどれだけいるのでしょう。
国の終身年金と初心者の投資を同列で語るな!
リベ大に限らず、繰上げ受給を勧める情報の多くが、投資で資産を増やせることを前提にしています。
ここ数年の株価上昇で多くの投資初心者が「株は簡単に儲かる」と誤解していますが、
国が保証している終身年金と暴落で半値の可能性も有る株式投資を同列で語ること自体が間違っているのです。
ここまでのおさらい
- 年金を損得で考えるな!
- 動画視聴者は前提を理解できない!
- 繰り下げた方が娯楽費を使える!
- 年金の改悪ヘッジにはならない!
- 初心者の投資と国の終身年金を同列で語るな!
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明らかに理解していない視聴者
繰り上げ受給を勧めるYouTube動画のコメント欄をチェックしてみました。
恐ろしい書き込みがわんさか集まっています。
中には「繰上げは税金が少なくて済む」などと、的外れな書き込みもあります。
そんな人は「税金を少なくしたいので、給料を下げてください」と社長にお願いしているんでしょうか😰
この程度の理解度の人が動画に影響され、繰り上げ受給を選択してしまったら、老後破綻は免れないでしょうね。
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インフルエンサーはあなたの老後に興味はない
多くのYouTuberが老後の生活プランや資産運用についての情報を投稿しています。
中には自分が儲けるためにダメな金融商品を勧める人もいるでしょう。
それらを信用して間違った選択をしたとしても、ほとんどの場合で一時的にお金を失うだけで済みます。
しかし、年金の繰上げ受給はやり直しがききません。
繰上げ受給を申請してしまったら、減った年金で一生生活する羽目になるのです。
そしてもちろん、あなたが参考にしたインフルエンサーは何のケアもしてくれません。
そもそもあなたが参考にしているインフルエンサーは、本当に年金に詳しい人ですか?
厚生労働省が推奨する老後プランは『繰下げ受給』が基本
厚生労働省はWPP理論と呼ばれる老後プランを紹介しています。
労働収入・自分で準備した老後資金・公的年金をバランスよく順番に使って、何歳まで生きても安定した老後生活を送れるようにするプランです。
現役時代にある程度の老後資金を準備する必要がありますし、年金の繰下げ受給が基本になっていますので、年金受給の申請をする前でないと実行できません。
ぜひ、現役時代からこの老後プランをチェックしてみてください。
WPP理論については別記事で解説しています↓↓↓
まとめ:
今回はお金系のYouTubeチャンネルで最も有名な『リベラルアーツ大学』の動画
【豊かな老後のために】年金を繰上げ受給した方が良いケースを紹介【リベ大公式切り抜き】の問題点を解説しました。
「サイドFIREできる資産があるなら年金は繰上げ受給してお金を使え!」という内容です。
しかし、中途半端な資産額で繰上げ受給を申請してしまったら、老後生活が破綻してしまいます。
この動画には全力でNGといわせていただきました。
- ❶:繰下げ受給が必ずトクではない
⇒年金は保険。損得で考えるものではない。 - ❷:十分な資産があれば老後の心配はない
⇒動画視聴者に『十分な資産額』が分かるか疑問! - ❸:お金の価値は若い方が高い
⇒逆に繰下げ受給の方が若い時にお金を使える。 - ❹:年金制度の改悪ヘッジになる
⇒改悪が影響するのはどの年齢も同じ。 - ❺:自分で投資した方が儲かる
⇒初心者の投資と国の終身年金を同列で語るな!
厚生労働省は以下の3つをバランスよく順番に使って、何歳まで長生きしても安定した老後生活を送れるWPP理論を推奨しています。
- 労働収入
- 自分で準備した老後資金
- 繰下げで増えた公的年金
ネット上では「日本政府が繰り下げ受給を勧めているのは年金を払いたくないからだ!」など、ありえない主張が散見されます。
しかし、私達の目的は日本政府に嫌がらせをすることではありません。
そんなことより自分の老後をお金に困らず暮らすほうがよっぽど大切ではないですか。
ほとんどのリベ大動画は優良なコンテンツ
この動画はとても他人に勧められるものではありませんが、他のリベ大動画については参考になるものばかりです。
「お金に不安がある」「投資を始めたいけどよくわからない」という方が、第一歩を踏み出す手助けにはなると思うので、ぜひ他の動画をチェックしてみてください。
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