「年金が減る」という話はよく聞きますが、実際にどれくらい減るかを調べる方はほとんどいないでしょう。
そこで令和6年(2024年)に行われた年金の健康診断と言われる『財政検証』の結果をもとに今後の年金はどうなるかを解説します。
結論としては
- 年金は減るが心配することはない
- 年金の繰下げ受給で十分対応できる
厚生年金・国民年金それぞれの対策を、厚生労働省が推奨する老後プラン『WPP理論』と合わせて解説しますのでぜひ参考にして下さい。
適当に年金の受け取り時期を決めてしまうと老後生活が破綻してしまいますよ。
- 年金は減る:悪い経済状況が続けば…
- 厚生年金&国民年金の夫婦で検証
- 資産2,000万円:単純に取り崩しでは足りない
- 繰り下げ受給で年金を増やせ
- WPP理論:十分な貯蓄がなくても安心
- 繰下げ受給は若いうちに娯楽費を使える
- 繰り下げのプランは途中で変えられる
- 国民年金:年金だけで生活は厳しい
- まとめ
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年金は減る:悪い経済状況が続けば…
まず財政検証の結果をまとめた公式PDFの頁です。
これだけでは訳が分からないと思いますので、重要な箇所をマーキングしてあります。
- ❶所得代替率:現役男子一人の平均手取り収入額と比較して夫婦二人世帯の年金額がどのくらいなのかをパーセントで表す
- ❷61.2%:2024年度の所得代替率
- ❸50.4%:過去30年と同じくらい経済状況が悪かった場合の所得代替率(2057年)
仮に現在の年金を年240万円(月20万円)もらっている夫婦がいるとしましょう。
現在の240万円が33年後、198万円に減っていますね
「これは大ごとだぞ」と不安に思う方がいるかもしれませんが、心配はいりません。
あくまで年金が緩やかに減っていき33年後に198万円になるという試算です、直ぐに減るわけではありません。
私たちの工夫で十分対処できるレベルなんです。
厚生年金&国民年金の夫婦で検証
ではこの年金減額をふまえて、今の私たちが何をすればいいか見ていきましょう。
モデルケース(夫が厚生年金、妻が国民年金)
- 65歳時点
- 年金額:月20万円(年240万円)
- 生活費:月25万円(年300万円)
- 資産額:2,000万円
『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金受給額の平均は月15万円ほどです。
国民年金の満額は月6万8千円で、夫の15万円と合わせて21万8千円ですが、計算しやすくするため20万円(夫14万円、妻6万円)想定です。
生活費の月25万円は2023年総務省の家計調査『65歳以上の無職世帯の消費支出』を参考にしました。
ただ、60歳以上は100歳近い家計も含んでいます。
そこで60代限定の支出を調べると月30万円前後で紹介されているケースが多かったため、なくても生活に支障がない約5万円(その他)を引いた25万円を『生活に必要な額』と想定してシミュレーションしてみましょう。
資産2,000万円:単純に取り崩しでは足りない
単純に生活費が月5万円(年60万円)足りませんから、その分を資産から取り崩す必要があります。
お金が足りないと分かっているので、資産は投資に回さなくてはいけません。
生活防衛資金として300万円を銀行預金に残すとして投資に回せるのは1,700万円ですね。
一見、余裕に感じますが運用が上手くいけばの話です。
2020年のコロナショックはわずか半月ほどで30%超のマイナスでした。
もしかしたら65歳で引退した直後に、その下落がくるかもしれません。
そうなれば老後プランが破綻してしまいますね。
暴落で1,200万円に減った資産では少し運用利回りが悪いだけで底をつきます。
またコロナショックは過去の暴落と比べると大した下落ではありませんでした。
2007年からのリーマンショックでは50%超の下落を記録していますから、さらなる下落にも備えなくてはいけません。
足りないなら3,000万円?いや、念のため5,000万円……
とにかくキリがありません。
では、安心して老後を送るためにどうすべきかというと年金の繰り下げ受給です。
繰り下げ受給で年金を増やせ
年金は受給開始を1ヶ月遅らせることに0.7%ずつ増額されて行きますから、差額を埋められるまで受給を遅らせれば良いのです。
3年間は資産を投資に回さず取り崩して生活し68歳まで年金の受給開始を遅らせれば、年金が生活費の300万円に届きます。
しかし、さすがに生活費ギリギリではちょっと怖いですね。
これはあくまで支給額ですから税金や社会保険料が引かれます。
さらに年金の減額が予想されていることも忘れてはいけません。
前述の所得代替率の減少を考慮すると年240万円の年金が198万円になる試算でしたね。
この差額をカバーするには更に何%の増額が必要なのでしょうか。
198万円を240万円に戻すには+21.2%が必要ですから、さらに2年6ヶ月、70歳6ヶ月まで繰り下げが必要です。
- 65歳:240万円
- 68歳:300万円(+25.2%)
当面の生活費相当額 - 70歳6ヶ月:350万円(+46.2%)
将来の年金減額も考慮した生活費相当額
これで仮に33年後、政府の試算通りに年金が減額されたとしても、生活費相当額を受け取ることができます。
さらに税金や社会保険料を計算しましたが、現在の生活費300万円を20万円上回る320万円の手取り額でした。
(税金・社会保険料の内訳・計算は記事の最下段に記載しています)
これなら余裕を持った生活を送ることができますね。
将来の為、投資は継続
なお「これでは将来年金が減額された後、税金が払えないのでは?」という疑問を持たれたかもしれません。
しかし、資産はそこそこ残っていますし、生活費以上の年金を貰えば余剰分を投資に回すこともできます。
ねんのため、さらに繰り下げる選択肢もあります(試算では73歳越)が、その間の生活費を取り崩す余裕があるなら、そのお金を運用に回した方が現実的でしょう。
生活に支障が出るほど税金の負担が大きくなるのは遥か先でしょうから、長期投資をしていれば税金はさほど心配いりません。
ただこれで解決ではありませんね。
WPP理論:十分な貯蓄がなくても安心
生活費以上の年金を確保できたとはいえ「貯蓄額が少ないのは心配だ」や「2,000万円も準備できないよ」という人もいるでしょう。
そんな人にオススメなのが厚生労働省も推奨しているWPP理論という老後プランです。
労働・取り崩し・年金での老後生活
WPP理論の流れを簡単に説明すると以下の通りです。
※WPPはWork longer(就労延長)・Private Pension(私的年金)・Public Pension(公的年金)
- 65歳以降も労働と資産の取り崩しで生活
- 繰り下げた年金が老後の生活費を上回る
- 一生涯、生活費以上の年金が手に入る
元気な間は働けばいい
65歳で仕事を引退せず働いたケースでは、貯蓄額900万円で年金生活に入れています。
年収は100万円と副業レベルに抑えていますから、大きな負担にはならないでしょう。
サラリーマンをやっているとフルタイム労働か定年退職かの二択になりがちです。
しかし、体と心の負担にならない程度の軽い仕事を続けることで、ストレスのない老後生活を送ることができるでしょう。
また、資金が足りない場合もWPP理論は有効です。
稼げば取崩す必要すらない
今回のケースは資産2,000万円を想定していますが、もう少し労働を頑張って年200万円稼げば、取り崩し額が年間100万円(計550万円)ですみます。
これなら資産額1,000万円でも達成可能ですね。
さらに極端な話、労働で年300万円を稼げれば、取り崩す必要すらありません。
老後のことなど全く考えず貯蓄をほとんどしてこなかったとしても、受給年金額が生活費を上回るまで働くことができれば、老後は安泰なのです。(さすがに少しは貯蓄してくださいね😅)
繰下げ受給は若いうちに娯楽費を使える
さて、私はあちらこちらで繰り下げ受給を熱烈に勧めるセミナーやSNS投稿をしていますが、
そんなとき良くある質問が『早く〇ぬと損するのでは?』です。
しかし、繰り下げ受給での主目的はお金を儲けることではありません。
老後生活を安定させることはもちろん、
資産運用のゴールを確定させることです。
投資のゴールが明確
多くの方が新NISAやiDeCoで株式投資をされておられるでしょう。
では、いくらまで資産を増やすつもりですか?
明確なゴールも決めずただ投資を続けていてはキリがありません。
繰り下げ受給を軸としたWPP理論はそのゴールが確定しています。
今回のケースは『70歳6ヶ月まで年金に頼らず生活できる額』です。
その額を確保できればあがりなんですよ!
逆に考えれば、それ以外の資産はすべて余剰資金です。娯楽費です!
繰り下げのプランは途中で変えられる
繰下げ受給は65歳以降の年金をもらわない期間で状況が変わった場合でも柔軟に対応できる制度です。
好きな時期から受給を開始できる
仮に70歳6ヶ月から受給する計画で生活していたら「生活費が思ったより少ない」
こんなケースは十分考えられます。
その際は受給を開始したい時に申請書を提出すれば良いだけです。
66歳から75歳までの期間で好きな時期から年金を受け取れるのが繰り下げ受給の制度なんですから。
「やっぱりやめた」ができる
考えたくありませんが余命宣告を受けてしまった場合などは、過去にさかのぼって年金を受け取ることができます。
この点は「年金をもらう前に死亡してしまったら?」と合わせて別記事で解説していますので、気になる方は↓↓↓のリンクをクリックしてください。
娯楽費のために『繰上げ』という愚行
なお、まれに『年金を繰上げ受給して60代は遊べ』と主張する方がいますが、冷静に考えてください。
老後生活がどうなるか分からない中、どれだけ娯楽にお金を使えますか?
こちらも別記事で熱く語っていますので、迷っている方はぜひ読んで下さい。
国民年金:年金だけで生活は厳しい
2024年(令和6年)の国民年金は満額受給しても一人当たり年81万6,000円 (月6万8,000円) です。
年金の繰り下げリミットである75歳で+84%でも150万円ほど(夫婦で300万円)ですから、生活費を年金だけで賄うのは難しいでしょう。
年金収入以外で何らかの準備をしておく必要があります。
健康な体の維持
まずは健康が第一です。ふざけているわけではありません。
健康こそ最高の老後対策です。
国民年金の受給額が少ないのは自営業やフリーランスに定年がないからです。
サラリーマンは働きたくても65歳で定年となります。
それまで会社のオフィスや工場で働いてきた人が、いきなり「定年後にお金が欲しかったら自力で稼いでください」と言われても難しいでしょう。
そのため現役中に厚生年金を上乗せして支払い老後に備えているのです。
自営業やフリーランスは『自力で稼ぐ術を持っている』ということです。
健康を維持し、その労働スキルを存分に活かしましょう。
iDeCo:新NISAより優先すべき
iDeCoは退職金の出ない人に有利な制度です。
投資時は掛け金が全額所得控除となるため、新NISAよりも優先して検討すべき選択肢です。
60歳まで出金できないという制限がありますが、老後資金として利用するならさほど気にならないでしょう。
出金する時は一時金としてまとめて一度に受け取るか、年金(5年以上20年以下に分割)として受け取ることができます。(併用も可)
受け取るときには税金がかかりますが、退職所得控除や公的年金等控除が利用できます。
運用が想定外に上手くいくと控除額を超えてしまう可能性もありますが、それはそれで老後に入る前の心強い備えといえるでしょう。
360万円の節税も
仮に毎月5万円の掛金で20年利用した場合、税率を30%と考えると360万円もの節税効果があります。
このiDeCoが60歳に2,000万円になったところで出金するとしましょう。
退職所得控除:20年で800万円
iDeCoで投資した資金を一時金として出金する場合は退職金扱いとなり退職所得控除が利用できます。
控除額は以下の取り
- 20年以下:40万円 × iDeCo加入年数 (80万円に満たない場合は80万円)
- 20年超:800万円 + 70万円 × (iDeCo加入年数 - 20年)
20年掛けて2,000万円になったiDeCoから800万円を一時金で出金すると800万円の退職所得控除が使えるので税金は掛かりません。
公的年金控除:毎年100万超も
2,000万円から800万円を一時金で出金した残りの1,200万円を15年かけて年金として受け取れば公的年金控除が毎年利用できます。
控除額は以下の取り
- 65歳未満:60万円
- 65歳以上:110万円
注:公的年金控除額は年収によって変わります。
年金で受け取り中も運用は継続されますので、受け取り額は定額ではありません。
しかし、年80万円と考えると64歳まで控除額をはみ出して少し税金を取られるだけですから、節税効果360万円を考えれば十分許容範囲でしょう。
巷では投資は新NISAという風潮ですが、退職金が出ない自営業やフリーランスはiDeCoを有効に使っていただきたいですね。
付加年金:利用しやすい
国民年金の保険料に月額400円を追加するだけの手頃な制度です。
月額400円を支払うと一生涯に渡り、月の年金受給額が200円増え、さらに繰り下げ受給の増額にも対応しています。
ただ年金額を増やす効果は比較的小さいのがデメリットですね。
それでも、少額から始められる追加的な年金として、基本的な対策の一つとして検討する価値はあります。
国民年金基金:上乗せされる終身年金
国民年金基金は国民年金の上乗せとして一生涯受け取れる年金制度です。
掛け金は全額が社会保険料控除の対象となり、受け取る時も公的年金等控除が適用されるため、税制面で優遇された制度といえます。
ただし、受給額があらかじめ決まっているため、将来インフレになった場合は相対的に目減りしてしまうという問題があります。
また期待リターンは少なく国民年金のように繰り下げ受給で増額する制度もありません。
「民間の個人年金保険に入るよりはマシ」といったところでしょうか。
利用限度額に注意
iDeCo・付加年金・国民年金基金は利用できる限度額は合計で月6万8,000円です。
たとえば付加年金月400円を利用すると、千円単位で掛け金を決めるiDeCoは月6万7,000円までしか利用できません。
熟考のうえで利用する制度を選択して下さい。
まとめ
- 年金の減少は避けられない
- 投資に頼った老後生活は不安定
- 繰下げ受給で減額した年金をカバー可能
- 投資のゴールが分かれば無駄な投資をしなくて済む
- WPP理論で労働+年金の組合せを推奨
- 国民年金は満額でも生活費確保が困難
- iDeCoは自営業者の老後対策として有効
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社会保険料・税金の計算
受給する年金
妻:105万円
夫:245万円
共に65歳以上・年金の他に収入ナシ
社会保険料
18万9,800円(浜松市の試算シートで計算)
所得税・住民税
- 『妻』:受給年金:105万円
所:105万円 - 110万円 - 48万円 = マイナスのため所得税なし
住:105万円 - 110万円 - 43万円 = マイナスのため住民税なし
- 『夫』:受給年金:245万円
所:(245万円 - 110万円 - 48万円 - 18万9,800円) × 5% = 3万4,000円
住:((245万円 - 110万円 - 43万円 - 18万9,800円) × 10% ) + 5,000円 = 7万8,000
年金受給額
公的年金控除
基礎控除
社会保険料控除
均等割額
社保18万9,800円 + 所得税3万4,000円 + 住民税7万8,000円 = 合計30万1,800円